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どうほう

同胞

豊島 与志雄

「中央公論」1924(大正13)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,713 字 · 32 页

青空文庫

はいって行って茂夫さんは……と尋ねるつもりだったが、それを為しかねてるうちに、益々気分にこだわりが出来てきた。それかといって、いつまで待ってもきりはなさそうだった。どうしていいか分らなくて、通りしなに店の奥をじっと覗き込んだ。とたんに中の女が顔を挙げてちらと彼の方を見た。彼は慌てて逃げ出した。こちらを向いた彼女の眼が、形も何も分らないただ真黒な輝きとなって、頭の中にはっきり残った。その時彼は初めて、その女を茂夫の母親だろうと思った。

それから二三日して、恒夫はも一度其処へやって行った。やはり揉上の長い彼女が店に坐って、往来の方を見い見い、薄汚い婆さんと話をしていた。婆さんは店先に腰掛けていて、いつまでも帰りそうになかった。恒夫はがっかりして立去った。

何も極りが悪いんじゃあない、家の人に気付かれちゃあつまらないからだ、と恒夫は自ら自分に云いながら、何故ともなく口惜しくて仕方なかった。そして唇をかみしめて考えてるうちに、学校へ尋ねてゆけば訳はないと思いついた。

その土曜日に、彼は一時間早く学校を脱け出し、途中で少しぶらぶらして、十二時間際の時間をはかって、豊山中学にはいっていった。