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どうほう

同胞

豊島 与志雄

「中央公論」1924(大正13)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,713 字 · 32 页

青空文庫

祖父が一寸はいって来てまた出て行った。恒夫はいつのまにか祖母の手を握っていた。筋張ったその手が間を置いてはびくりと震えて、やがて静かになっていった。祖母は眼をつぶって、そのままうとうとと眠ってゆくらしかった。一人の看護婦が小首を傾げて、その様子を見守っていたが、恒夫の手から祖母の手を離さして、毛布の中へそっと差入れてやった。気がついてみると、母の姿が見えなかった。

恒夫はじっと坐っていた。いつまでたっても何のことも起らなかった。あたりがしんとしてしまった。

恒夫はやがて立上って、室から出て行った。次の室では、祖父が碁盤をわきに片付けて、伯父と何やら話していた。恒夫は一寸お辞儀をして通りぬけた。

四畳半の勉強室の縁側に、母と茂夫とが坐っていた。恒夫はほっと大きく息をして近寄っていった。

「お祖母さんは……。」

「眠っていらしたようです。」

「また。」

母は急いで祖母の方へ行った。そのぽかんと開いた眼と口とが、不思議な感じで恒夫の頭に残った。

茂夫はまだ涙を一杯ためてる眼を、庭の地面に落したまま、黙って身動きもしなかった。

「お母さんが何か云ったの。」と恒夫は尋ねた。