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ぜんあくりょうめんねずみこぞう
善悪両面鼠小僧
国枝 史郎
「ポケット」1925(大正14)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,231 字 · 21 页
と云うのは次郎吉の声が、平素と大変異うからであった。妙に濁って底力がなく、それでいて太くて不快な響きがある。スッキリとした江戸前の、いつもの調子とは似ても似つかない。
「ねえお前さんどうしたの? いつもと声が違うじゃないか?」
訊いて見ても返辞がない。
で、構わず縁へ上り、立ててある障子を開けようとした。
「いけねえ! 馬鹿! 来ちゃいけねえ!」
突然内から呶鳴る声がしたが、もうその時は開けていた。
「まあどうしたのさ。呶鳴ったりして」
見ると次郎吉は端然と蒲団の上へ坐っている。別に変わったこともない。ただ二つの薬瓶が膝の上に置いてある。そうして周章てその瓶をパッと両手で隠したものである。
「えい、あっちへ行っていろい!」
云いながら次郎吉は睨んだが、その眼光の凄いことは、お松をして思わず身顫えさせた。
お松には何となくその薬瓶が怪しいものに思われた。
こういうことがあってから半月ほどの日が経った。
その時またも次郎吉は、いつまで経っても起きて来なかった。
「どうして内の人はああ時々夜遅く帰って来るのだろう?」
昼が来ても起きて来ない。
で、お松は離れ座敷へ飛石伝いで行って見た。