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もふく

喪服

久生 十蘭

「文學界」1957(昭和32)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,793 字 · 24 页

青空文庫

浜口 おはよう……まあ、掛けたまえ。

静江 いらっしゃい。

秋元 (静江に)おやすみのところを、どうも……

静江 そんなに怠けているわけでもないのよ、あなたこそ、こんな朝がけから……なにかご用でしたの?

秋元 (慇懃に)今朝ほど、知らせてくれたものがありましたが、一郎さん、とんだご災難で……

浜口 (叫ぶように)一郎、死んだのか。

秋元 思いもかけないことで……

静江 交通事故だったのね?

秋元 はあ、ごぞんじでしたか。

静江 (気がついて)いま伺ったわけだけど、たぶん、そんなことじゃないかと思って……

浜口 それで、どういうことだったんだ?

秋元 根岸の七曲りでスリップして、そのまま堀へ突っこんだらしくて……

静江 ああ、あの坂で……

秋元 通りがかりに現場を見ましたが、あおのけにひっくりかえって、車輪だけ水のうえに出ていました……クレーンを持ってきて、車をひきあげるんだそうですが、あの状況では、運転席からぬけだすことはできなかったろうと思います。

浜口 あいつは車を扱い馴れているから、まちがいなんかしでかすはずはないのだがね。

秋元 災難というのは、だいたい、そういったもので。