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もふく

喪服

久生 十蘭

「文學界」1957(昭和32)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,793 字 · 24 页

青空文庫

浜口 あいつのヌルヌルした不潔な感じが、どうにも我慢ならなかった……毎朝、新聞をあける前に、あいつの記事がデカデカと出ているのではないかと思って、息をつめるんだ……。

秋元 お察しいたします。

浜口 あいつは戦地で自動車の運転をおぼえてきて、あっというような無茶な運転をする……危険に賭け、危機を弄ぶ、そういう気質の男は、いつかは、かならず失敗する……わざとあんなところに追いあげておいたのは、おれの心の深いところに、いつかは失敗るだろう、失敗ってくれればいいという、願望があったわけだ。

秋元 何千人という人間が、あぶなっかしい車を運転して、毎日、根岸台を上ったり下ったりしております……次官、そこまでお考えになる必要はないように思いますが。

浜口 根岸台に住んでいるのは一郎ひとりじゃないが、あいつほどの無鉄砲な男はいないはずだ……そういう弱点を計算して、予想の中に組みこんであったのは、まぎれもない事実だ。胡麻化そうにも、胡麻化しようがない。

かつ、入ってくる。

かつ (浜口に)こういう方がお見えになりました。(名刺をわたす)

浜口 うむ?(名刺を見て、暗い顔つきになる。