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きつえんへき

喫煙癖

佐左木 俊郎

「北海タイムス」1931(昭和6年)9月、「河北新報」1931(昭和6年)10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,988 字 · 5 页

青空文庫

」

「それはそれは……実を申しますと、あの頃その売店に座っていたのは、私でござんすよ。」

「ははあ! それさね。」

爺さんは驚きの眼をみはって、婆さんの顔を、じっと視直した。

「それさね。」

「これを覚えておいででしょうがね?」

婆さんは爺さんの前に片手を出して見せた。その指には真鍮の指輪が鈍く光っていた。

「思い出しました。貴女でしたか? その指輪は、私が、機関車のパイプを切ってこしらえた指輪でしたがなあ。」

「銅貨の中へ混ぜて、貴方がこれを私にくれて、顔を赤くしながら逃げるようにして走って行ったのを、今でも覚えていますよ。私はそれから、この指輪を片時もこの指から脱いたことがございませんよ。こんなに磨り滅ってしまいました。」

「貴女でしたか? それで貴女は、今、どこで何をしておいでになりますね。」

「月寒で、ほんのつまらない店をもって、お茶屋をやっています。すぐですからどうぞお寄りになって、ゆっくり、お茶でもあがって行って下さいましよ。それはそれは、あの時の方は、貴方でございましたか?」

馬車はもう月寒の町並に這入っていた。

――昭和六年(一九三一年)九月『北海タイムス』