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とらわれ
囚われ
豊島 与志雄
「早稲田文学」1915(大正4)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,848 字 · 42 页
」
恒雄は二三度頭を強く横に振った。それからしかとした調子で孝太郎に応じた。
「外に出ましょう。」
二人はそのまま表に出た。その際孝太郎はふとふり返って富子の顔を見た。彼女はその堅く引きしめた顔の眉一つ動かさなかった。そして何かを挑むような高慢な眼が、動物的な冷たい光りに輝いていた。
外に出ると彼等の緊張し興奮した精神はそのままに堅く凝結してしまった。彼等はもはや語るべき何物も、考うべき何物も持たなかった。ただ漠然と引き緊ったものを頭に持って、うら寒い通りを真直に歩いた。
点々と軒燈に輝らされた通りには、物の遠近を無くする空虚が拡がっていた。そして凡てのものの上に、曇ったまま澄みきった暗い空が蔽うていた。
二人はただ足に任せて歩いた。そしてとある掘割の袂に出た。彼等は云い合したようにその冷たい欄干にもたれて、下に澱み流るる黒い水面に見入った。
「どうするつもりです。」と突然恒雄が口を開いた。その言葉は殆んど挑戦的にあたりの空気に響いた。
孝太郎は一寸唇をかみしめた。それから静かな落ち付いた調子でこう云った。
「あなたはどうしてあんなことを……。」
「僕ばかりの責任ではないんです。