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とらわれ

囚われ

豊島 与志雄

「早稲田文学」1915(大正4)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,848 字 · 42 页

青空文庫

」

「もとからお分りになっては被居らなかったでしょ。」

「先には分っていたようです。」

「え?」と富子は急に孝太郎の方を向いた。

孝太郎は何か彼女の眼の中に恐ろしいものを見た。

「あなたは此の頃すっかりお変りなすった。」

「みんなでそう私をなすんです。」

「ではなにか……恒雄さんが。」

「何を仰言るんです。」

富子はこう云って自分でも喫驚したように一寸呼吸を止めた。孝太郎はその横顔の上に震える後れ毛を見た。すると彼の心は急に堪えられなくなった。其処に身を投げ出して叫びたくなった。

「許して下さい。私は苦しいんです。」

「そんなことを仰言るものではありません。私は……いえこうしていちゃお互に悪いでしょうから。」

富子は黙って向うへ行ってしまった。

孝太郎は二三歩その後に従った。けれど突然彼は何かにぶつかったような気がした。彼は自分のまわりに冷たい壁と、それから自分のうちに熱い呼吸とを、殆んど同時に見たのである。そして喘ぐような処で、庭に一杯さしている弱い尖った日の光りを見やった。

孝太郎はまたも茫然と佇んだまま富子の姿を思い浮べた。執拗な沈黙と孤独とが、何時のまにか彼女のまわりにたれ籠めていったのである。