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とらわれびと
囚われ人
豊島 与志雄
「群像」1952(昭和27)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,109 字 · 35 页
そのくせ、眼には一杯涙ぐんでるわね。愛子がいないのが淋しかったんでしょう。その涙を見ると、あたしほんとに済まなかったと思うわ。外に出ても、あんたがどうしてるか気にかかって、おちおち用も達せやしない。
――夜寝ても、あんたはいつも、愛子の顔を自分の方に向けさせるわね。あちら向きになると、頸筋をくすぐって、こちら向きにならせる。そして、あたしの額にあんたの額を、あたしの鼻にあんたの鼻を、こすりつけてくる。ちっちゃな子供みたいね。そのくせ、あんたはほんとに眼ざとい。あたしがちょっと身動きすると、あんたはぱっちり眼を開いて、あたしの顔を見てるでしょう。いったい、あんたはほんとに眠ることがあるのかしらと、不思議に思うことがあるわ。一緒の布団に寝るのがいけないのかも知れないわね。
――それでいて、あたしなんだか、気持ちがしっとりと落着かないの。あんたが愛子をほんとに好きだってことは、そりゃあ分ってるわ。分ってるけれど、ほかにまだ何かある。何か冷りとするようなものがある。あんたのうちにあるのよ。あの「黎明」のために、人の出入りが多いことなど、あたしは何とも思ってやしません。