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とらわれびと

囚われ人

豊島 与志雄

「群像」1952(昭和27)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,109 字 · 35 页

青空文庫

お前たちはどうだい。

時彦――よしきた。元気にいこう。

時彦が音頭を取って、ラ・マルセイエーズを歌い出し、一同それに和して歌いながら卓を叩いて拍子を取る。議一ひとり黙っている。

愛子――あんた、なぜ歌わないの。

議一――僕は、そんなバター臭い歌は知らないんだよ。

愛子――まあ、フランスの国歌じゃないの。そんなら、何を知ってるの。

議一――そうさなあ。ノーエ節ぐらいなもんかな。

愛子――ノーエ節……。ああ、富士の白雪というあれでしょう。

酒太郎――宜しい、こんどはあれにしよう。ぐるぐる廻って、際限なく歌える。この円卓みたいなもんだ。

一同はノーエ節を歌いながら、円卓のまわりを踊るように歩き始める。歌は終りからまた初めへと連続し、彼等は円卓のまわりを何回も廻る。――ただ議一だけ、腰掛けたままでいる。

ふと、時彦は議一の側に立ち止って、その顔を覗き込む。

時彦――やあ、これは不思議だ、俺のあの菓子を食ったのに、この男は居眠りをしている。眠られる筈はないんだがなあ。

皆そこに集まってくる。

煙吉――眠られなくなるって、本当かね。

時彦――俺は嘘は言わない。

煙吉――それじゃあ此奴、狸寝入りか。