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とらわれびと

囚われ人

豊島 与志雄

「群像」1952(昭和27)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,109 字 · 35 页

青空文庫

徒らに左翼と右翼との抗争のみが激化し、基本人権は侵害され、自由と平和は脅威を受ける。このまま放置しておいてよいかどうか。歪曲された国家権力に対して、何等かの抗議を提出すべきではないか。だいたいそういう結論だったが、当面の実際運動については、次の会合で話し合うことになった。

――これだけ言えば、正夫君、君の胸に応えるものがある筈だ。以前、君がしばしば提出していた意見と全く同じだからね。其後どうしたことか、君は殆んど会合に出て来なくなったし、たまに出て来ても、殆んど口を利かなくなった。だから、今日の会合で、会議のあとの雑談の折に、僕たちが君のことを思い出したとしても、不思議ではあるまい。誰からともなく、君の噂が出た。君がやってるあのちっぽけな旬刊新聞、「黎明」の話も出た。あれはたしか、少数の読者を相手にした文化啓蒙のパンフレットの筈だが、それが近来、頗る政治色を帯びて来た、という説もあった。どこからか秘密な資金が出てるのだろう、という説もあった。評判は香ばしくなかった。そこで、正夫君、僕は、いや僕たちは、君にはっきり聞きたいんだ。君が金銭のために身を売ったかどうか、それが聞きたいんだ。