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とらわれびと
囚われ人
豊島 与志雄
「群像」1952(昭和27)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,109 字 · 35 页
彼は突っ立ったまま、室内を睥睨するように見廻し、正夫に眼を止めて、右手を差し伸べ、更に人差指を一本差し伸べて、正夫を指し示す。
時彦――俺は時彦という者だが、この人をよく知っている。煩いから騒ぐのは止しなさい。この人は決して退屈なんかしていない。退屈したことなんか決してない。ただ、俺を軽蔑してるだけだ。言い換えれば、俺を無視してるだけだ。
――この人は恐ろしく懶け者だ。ただそれだけだ。だから、懶け者の癖として、決して退屈することなんかない。何もすることがなくても、退屈しないし、何もしないでいても、退屈しないし、どんなに忙しくても、退屈しない。恵れた性格さ。ね、そうだろう、正夫君。
正夫君と呼びかけて、時彦は初めて差し伸べた右手を下し、両手の甲を腰に当てがい、真直に突っ立ったまま口を利く。
時彦――いつだったか、面白いことがあったね。君は宿酔の体を日向に投げ出して、絵本を見ていた。開かれてる頁は、兎と亀の馳けっこの話の、兎が途中で昼寝をしてる、あのところだった。いつまでも君がそれを眺めてるし、しかも嬉しそうに眺めてるので、俺は不思議に思って、何をそんなに感心しているのかと、尋ねてみた。