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しじゅうねんまえのふくろだのたき
四十年前の袋田の瀑
木暮 理太郎
「旅」1936(昭和11)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,049 字 · 8 页
ともかく日光の華厳瀑や尾瀬の三条瀑とは趣を異にして、互に伯仲す可き名瀑たるを失わない。崖からのり出している幾本かの紅葉は、吹き上げるしぶきにしとど濡れていた。これでもう少し離れた位置に適当の観瀑台があれば、更に一層の風情を添えるであろうと惜しまれた。
やや時を移すほどにあたりは次第に薄暗くなって来た、足もとが暗くなっては帰路が危い。急いで引返すと村にはもう灯がともっていた。宿屋はと尋ねても大子まで行かなければならないという。困っていると温泉で泊めるかも知れないと一人の若者が親切に其家へ案内して呉れた。最前見た田の中の新築の家がそれであった。大子あたりから遊びに来る人をあてに始めた料理家だそうであるが、頼んで泊めて貰った、まだ開業前で、いの一番のお客様だと女中が話した。木口は上等ではないが畳も調度も新しいので、下君田の宿とは比較にならない。
特に気に入ったのは風呂であった。田の中に湧き出している温泉をそのまま大きな湯槽に湛え、中央に在る直径五寸ほどの湧き口に鉄の格子がはめてある。無色透明な温泉は、盛り上る勢で滾々と湧き出し、深さ三尺に余る二坪の湯槽に溢れて、四方からざあとこぼれている、何という気持よさであろう。