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とちにかえる
土地に還る
豊島 与志雄
――近代説話――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,523 字 · 22 页
そして彼の畑地は、最もよく耕されたものの一つとなりました。ただ、彼の農耕は、食糧を得るのが目的ではなく、謂わば内心の憂悶の吐け口だったのです。
彼は時間に充分の余裕がありました。郵便局は所謂三番勤務で、日勤の日は終日ですが、次の宿直の日は午後四時から出ればよろしいし、次の宿明の日は午前九時から退出してきました。日勤の日にも、月に二回は閣令休暇があり、十日に一回は特別休暇がありました。それ故、殆んどいつも耕作に出られるのでした。そして甚だゆっくりと仕事をしました。
瓦礫を拾いのけ、土を掘り起し、その土をふるいにかけ、畝を立て、種を蒔き、苗を植え、雑草をむしり、虫を取り、時には水をやり、支柱を拵えるなど、いろいろな仕事がありました。それらのことを、彼はなにか物案じげな様子で、ゆっくりとしました。肥料としては、ただ堆肥だけを使い、下肥は用いませんでした。下肥を嫌がったわけではなく、その臭気が内心の思いを邪魔するからだったのでしょうか。
土の匂いと青葉の匂いとの中で、彼が最も思い悩むのは、木村明子にどう返事を書いたらよいかということでした。
木村明子はもと、笠井直吉と同じ郵便局の事務員でした。