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トソンラン
土城廊
金 史良
「文芸首都」1940(昭和15)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,752 字 · 52 页
鼠はあわてふためき箱の中をがたがた駆け廻って不意に飛び出て来た。恐怖に満ちて一寸立竦み、敷藁をくぐって先達の婦の膝の間を抜けようとしたのだ。婦はアレレと悲鳴を上げた。元三はうふふ、うふふと今度は婦の方へ飛びかかった。鼠はいつの間にかすり抜けて背中をうねらせ一目散に逃げ去ってしまったが、この瞬間元三にとっては実に驚くべき事件が起った。それは爺が婦を抱いたからである。元三はどうした拍子にか婦の肥じしを抱えたのだ。それと同時に爺は息も止まり全身に痙攣さえ起きたようだった。うーと滅入るような声を出してごろりと転び、彼女の肥じしの上に自分の顔をのせると、そのままとろけ込んでしまった。婦は手を振りつつうろたえた。だが元三はかすかな声で、
「鼠だー鼠だー」と喘いでいた。
徳一や跛は腹を抱えて笑った。爺はやっと正気に返ったとみえ婦の腿を放すと、ばつ悪そうに手をぼそぼそはたきながら起き上った。婦も手を叩いて笑いこけた。
「鼠あ全く利口もんだで」元三はへーと笑って見せた。
「お祝い米さ買っておいたら、う、どんげして嗅ぎ込んだだか盗みに来るでねえか」
(嗅ぎ込んだなあ鼠ばかりでねえかも知らねえ)と、跛や徳一は唾をごくりと呑みつつ考えるのだった。