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トソンラン

土城廊

金 史良

「文芸首都」1940(昭和15)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,752 字 · 52 页

青空文庫

「寄るでねえ。人さ見るでねえか」

爺はむんずと腕を組んだ。そして大きな胸をさらけ出すと無精鬚の顎を上下にふった。

五六の土幕民が屑物を背負うて北の手の石橋の方へ避難して行く。一人の顔の黒い小柄な年寄りは、何か持ち出すものはないかと腰を屈め崩れた小屋の中を棒切れでほじくっていた。それを見るといよいよ爺は、目先のくらくら暗むような絶望感に打ちのめされた。

ふとその時元三は背後の方にただならぬ喧騒を意識した。振り向いて土城の上を見上げた瞬間、彼はその場に釘附けになった。形相を変えた土幕民達がぞろぞろ並んで来る中に、一人の労働者風の男が背中に血塗れになった男を担いでいる。不吉な予感がさっと脳裡をかすめ、爺は反射的に駆け上った。果して背負われたのは先達である。ぐるぐる繃帯した頭がぼうふらのように肩越しに揺れていた。

「どいた、どいた」誰かが呶鳴った。

彼等は雲のように先達の土幕の方へ下りて行く。幾人かは入口の前にはだかって、盛んに小突き合いつつがやがや騒ぎ立てた。

怖ろしい不安に襲われた元三は暫くの間身動きも出来なかった。息がぜいぜいとなって苦しく悶え、爺はその場にがくんと坐り込んでしまいそうだった。