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ざいがくりゆう
在学理由
豊島 与志雄
「日本評論」1938(昭和13)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,167 字 · 21 页
学校にいる方が、いろいろ便利ではある。第一、先生にしたところが、自分が大学生だから三十円貸してくれたんで、学校を出てぶらぶら遊んでいたのでは、とても信用してくれなかったろう。然し、学校を出ても、伯父から多少の補助は受けられるし、自分でもいくらか働き出せるだろう。その上、自分を理解してくれる先輩や友人も、先生や「おやじ」の息子など、幾人かある。今のアパートのお上さんも、自分に大変親切にしてくれる。これで心丈夫だし、しっかりやっていこう。云々。
「先生、どう思いますか。」
軽く応答していた吉村は、いきなり尋ねかけられて、李の真剣な眼を見返した。
「そして、君は一体、今後どんな方面に進むつもりかね。まさか、文学をやるつもりじゃあるまいし。」
「そんなつもりはありません。同じように、勤め人になるつもりもありません。だから、弱ってるんですが、自然にどうにかなるでしょう。その時はまた御相談します。」
それが妙に淋しく響いたので、吉村は無言のまま、空を仰いだ。丁度広い坂の降りぐちで、暮れかけた東の空に、半ば欠けた月がほんのりと浮いていた。
吉村は俄にしみじみとした愛情がわいて来るのを覚えた。