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ちのしおぶんがくのしお
地の塩文学の塩
宮本 百合子
「懸賞界」1940(昭和15)年2月上旬号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,809 字 · 8 页
火野葦平として自分の書けたことに、作家としての葦平は又感慨なくもないであろう。その感慨を、彼はどんなに身にひき添えてかみしめているか。作家としての自分が従来の作品の文学性の砦の胸壁のようにそこへ胸をもたせかけて来ていた人情というものをその現実のありようの多面のままにどこまでさわり以上のものとして発展させてゆくか。云ってみれば、これまでの自分にいかに幻滅し得る勇気をもっているかということに、文学の徒としての基本点がかかっている。
何かの婦人雑誌に彼が最近かいたものの中で、文学を日夜想念する作家として誰彼のことを云っていたが、文学の想念ということは、窮局には、たゆまず自分を破いて行こうとする情熱、それを表現し文学化してゆく文学上の諸要件での一致点の発見のことではないだろうか。
何の力にすがって、刻々の自分の殼を破ってゆくかと云えば、人生的文学的な自己省察であり、そのようなきびしいたゆみない自己省察は人間の生きつづける歴史の継続としてのこの人生と文学とに期するところがなければ生じるものではないであろう。大いに期するところは、人類と文学との継続の鎖に更に輝やかしい一環を寄与したい心であると思う。