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ちじょう

地上

島田 清次郎

地に潜むもの

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页

青空文庫

彼女は鏡で襟を直して、そして二階へ上がっていった。暫くして「今晩は、女将さん」と三人の若い、しかしあまり美しくない妓が三味線も持たずに上がって来た。

「御苦労さん」女将は三人を手招きしてよびよせた。そして微かな声で五分間もこの夜のわけを話した。三人とも嫌な顔をしたが口では、「ええ、ようござんすわ」と答えた。三人は女将の出した観世縒を抜きとった。三人共二人の籤にあたった。まだしものそれが悦びでもあるような顔を三人はした。

「それじゃ二階へあがって頂戴」

三人は階段をあがっていった。二階では狂暴な、野獣性の叫びが一斉にあがった。

「さ、のまなくちゃいかん。我輩のさした盃を受け取らんちゅう法があるか!」

酒と女の香が十八人の男の理性、習慣をふみにじり吹き倒してしまった。暴風のような乱調子な三味の音響につれて、男の濁った胸の引きさけるような吠えるような野卑な声音が、無茶苦茶な流行唄を怒鳴った。そうした嵐の間を一人一人芸妓がそうっと下りて来た。そして女将の手からこの夜の運命を決定する観世縒を抜きとっていった。時子は二人のをとったとき、さすがに悦しそうに白い歯を出して笑った。