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ちじょう

地上

島田 清次郎

地に潜むもの

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页

青空文庫

と言われて冬子は二階の奥庭に面した座敷へ来た。

二階ではお幸と菊龍が天野の機嫌を取るのを、天野が静かな微笑であしらっていた。

「どうだった」彼は冬子に声をかけた。冬子はためらった。

「いいよ。言った方がいいよ」

「あの――まだ何も話は致しませんですの」

「――そうか」

彼はむっくりと立った。冬子にその儘でいるように暗示して、階下へ下りて行った。二階ではお幸と菊龍と冬子が残された。お幸はいつものように艶々と美しかった。

「暫くでしたのね、冬子さん」

「ええ」

「何だか一月も会わなかったような気がしますのね」

冬子は微笑した。一月どころでない。一生を新しくする改革の体験を自分はこの三日のうちに得たのである。永い間苦しめた自分の尊敬と愛を捧げるものをもたない寂しさが一人の男によって破られてしまったのだ。曠野に太陽は現われたのである。もはや寂しい孤独ではない、仰ぐべき太陽をもつ自分である。冬子には、それは寂しいことではあるが、その「寂しさ」は前の寂しさと違っている。

「わたし、ことによったらお別れするかも知れないの」

「あなたが? 本当? そう――それはおめでとう!」

そこへ天野が戻って来た。