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ちじょう
地上
島田 清次郎
地に潜むもの
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页
「何しに?」
「自由社の講演会に」そう言ってお光は電報を見せた。そうして三人は階段を下りて、長い縁側の廊下を通って茶の間へ行くと、髪の毛の白くなった容太郎がただ一人瞑目して坐っていた。そのときの父と三人の子が坐って向いあったときの森厳な平和はお光に一生忘られなかった。容一郎がじり/\に燃えて来る野の道を金沢の方へ出て行くのを綾子とお光は見送ったのである。
蒸し暑い風の淀んだ次の日の夜であった。地平にひろごる残光は暗い空と黒藍の海に吸われて、闇が平野一面に這い拡がっていた。曇った鈍い空には月光が層雲の間から射すのみで月は見えなかった。血を騒がす異様な蒸し暑さが充ちる夜であった。お光は門口に立って戸外を眺めていた。彼女は綾子が夕頃から見えなくなったのが何故か心配であった。昨日の夕方晩く、兄の容一郎が勝利を得た将軍のように金沢から帰って来た。彼は実にその時の講師の一人である青年思想家天野一郎を同道して来たのであった。お光は少なくとも三十四、五の人物を予期していたのに未だ三十前の青年であった。しかも、その男性的な容貌と態度の立派さ! 威圧するような泰然とした静坐の仕様、静かではあるが熱と力に充ちた話し振り、父の容太郎に広い茶の室で容一郎が紹介したときの、あの父さえも一と呑みにしてしまったような自由な悠々たる身のこなし