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ちじょう

地上

島田 清次郎

地に潜むもの

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页

青空文庫

それは「冬子」とお光母子とを結びつけた偶然な事実であった。

お光母子が芸娼妓紹介の家の二階に移り住んではじめての秋十月のことだった。お光は夕飯をすまして、食器を薄暗い台所で洗っていた。階下の茶の間ではその日午過ぎから高声で主婦さんが嗄れた声の男と話している何かの話のつづきをまだ喋っていた。此家へ来てからまだ五月とたたないのであったが、誘惑されて来たらしい色の黒い田舎娘を坐らせて置いて、

「九十六カ月の年期で五百円より出せぬ」

「いや、これで玉は上玉だあね、八百円出しても損はしない」

「――冗談でしょう。こんな代物に八百円出せとはそれあ無理でさあね」

「それじゃ七百七十円まで負けましょうや」

「どうして! 五百円が精いっぱいでさあね。お前さんだってそう骨折って育てた子供という訳じゃありますまいし、なんだね、思い切りの悪い。さんざ初物の御馳走を吸いつくしたかすをなげ出すからってさ!」

「御冗談でしょう。それじゃまあ六百円――」

「ええ、しかたがありませんや、もう五十両で手を打ちましょうや」

こうして一人の女の五百五十円で売られてゆくような事実を幾度となく見せつけられている彼女は、またそうした話であろうと胸を痛めつつ聞かないようにしていた。