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ちじょう
地上
島田 清次郎
地に潜むもの
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页
またよりよくしなくてはならない。どうにも出来ないのは宇宙苦だ。宇宙苦はありとあらゆる万物に滲み入っている。自分達は僅かにこの地上の人間的苦しみをさえ征服出来ずにいるのである。宇宙苦を知らないで人間を終わるものが大多数であるのだ。――平一郎はこの夜午前一時過ぎに家へ帰った。
彼にとって尾沢のグループはもはや生活するに必要なものとなってしまった。とにかくその中に行けば生きた熱情、真の苦しみ、歓喜に接することが出来た。それは若き平一郎にとっての僅かの慰みであった。平一郎は少年期の傾注的な熱情と信愛をもって『底潮』の一団に交わったのである。お光は平一郎の急に多くなった外出、夜更しに心配したけれど、彼女は急には平一郎にそれと注意しないだけの思慮を積んでいた。危険な峠が我が独り子の道にさしかかっているのを彼女は認めた。四十年の苦労が彼女をして急に盲目的に我が子の道に干渉することを控えしめていた。それは善いとも悪いとも言えなかった。生理的に熟しつつある平一郎の男性的目覚めがあの恐るべき放蕩と堕落に彼を導く暇のなかったのは確かに平一郎の幸福と言わねばならなかった。