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ちじょう

地上

島田 清次郎

地に潜むもの

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页

青空文庫

あの御大葬の儀式をわたし日比谷公園の前――宮城の間近なんですのよ――に旦那様の会社の持地がありますので、そこで会社のお方と御一緒に拝まして頂きましたの。わたし、そのときは随分辛い思いを致しました。まるで旦那様と何の関係もない人間のように取り澄ましていなくてはならないのでしょう。夜も更けて、もう御霊柩が宮城を出なさろうという時分、ふと傍を見ますとフロックコートを着た会社の方の間に小母さんそっくりの女の方の顔が見えましたの。わたしはそのとき自分の眼の迷いではないかしらと思いましてようく見ていますと、その方は小母さんよりか肥っていて、小母さんよりか眼の怕い顔容で、小母さんよりか立派でだん/\小母さんに似ていなくなりましたが、あんまり不思議で傍の人にそっと聞いてみますと、小母さん、それが天野さんの奥様なのでした。――そのとき感じた水を浴びるようなすまないような情けないような妬ましいような心持は、わたし一生忘られません。それに小母さんにそっくりなんですもの、わたし何んと言って好いか分らない位、深い恐ろしさを感じたのでございますの」

冬子はそれから、妾という生活の本当のどん底は頼りない寂しいものであること、今でもいつ捨てられはしまいかという不安の絶えないこと、社会的に常にある迫害と擯斥が絶えないことを話した。