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ちじょう
地上
島田 清次郎
地に潜むもの
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页
彼女は湯の中に温まっていると、凝結して硬ばった全身の神経が異常な溶けるような痛みを覚えつつゆるんでゆくのを知っていた。彼女は他の芸妓達のように化粧したり膚を磨いたりする気にはなれなかった。浴槽から上がって、湯気に包まれて心臓の鼓動を休ませている。少し寒気がすると浴槽に這入って眼をつむっている。そうしたことを繰り返しているうちに頭脳も身体も無気力な無為なゆるみに休息してしまう。茂子はぼんやりした様子でいつも家へ帰って来て、鏡に向っても化粧一つしようとしなかった。色黒な眼尻のやや釣上った容貌を自覚している彼女は、白粉を塗るよりもさっぱりした薄化粧の方が本来の性にかなっていると考えていた。茂子の鏡台はお幸と時子の鏡台の間にあった。時子とお幸は茂子を中に坐らせておいたまま勝手に話し合った。茂子は何もせずぼんやり坐ったまま黙っていた。
「米子と市子ちゃんはどうしたのかしら」
「踊りの稽古じゃないの」
「踊りの稽古にしちゃ長すぎますね。ほんとにしょうがない。また道草をくってぐず/\しているんだよ」
時子がこう呟いて新しいタオルで肌の水気を柔かく吸い取らせている時、店前の街路で市子の厚味のある声が聞えた。