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ちずにないまち

地図にない街

橋本 五郎

「新青年」1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,139 字 · 32 页

青空文庫

「じゃ今夜の宿がないってわけだな?」と同情に満ちた声でいったのが、聞き終った時の老人の最初の言葉だった。「だがまあいいやな、若いんだから。そのうち芽の出る時もきっとくるだろうよ、くよくよしないでやってるんだな――で今夜は、なんなら俺のところへ来てもいいんだが、来るかい? なあにお互いだから遠慮もいりはしないが、とにかくここから出ることにしよう。もうお巡りさんの廻って来る時間だ、見つかるとまたうるさい」

お巡りさんといわれて、寺内氏はハッとなったという。それまで考えてもみなかった淋しさが、潮のように氏の胸をとりかこんだ。氏は老人に続いて、何を考える暇もなく立ち上がった。そして池畔のわずかだった休息から、今はすっかり暗くなった六区の石畳の道へと出たのである。

石畳へ出て二、三歩行きかけた時、

「そうだ、行く前に風呂へ入らないかな、相当疲れているんだろう?」

と老人が立ちどまった。氏は別にその時入りたいとは思わなかったが、今更老人に逆らってみてもはじまらないといった気持で、御意に従う旨を表情で示すと、

「じゃちょいとここで待っていてくれ、俺が今湯銭をこしらえて来るから――」