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ちていせんしゃのかいじん

地底戦車の怪人

海野 十三

「ラヂオ子供の時間」(「地底戦車兵の冒険」のタイトルで。)1940(昭和15)年2月~

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 55,000 字 · 111 页

青空文庫

林檎

傾いた戦車の中に、電灯だけは、ぜいたくにも煌々と照っている。

ピート一等兵は、大きな図体を、小さく縮めながら、失心したようになって、床を見つめている。

(ああ、なんとかして、もう一度、パンというものをむしゃむしゃ食べてみたい。娑婆には、むかしビフテキなんてえ、うまいものがあったなあ)

そんなことを考えているうちに、ピート一等兵は、おやという表情で、鼻をひくひくさせた。

(おや、なんか食べ物の匂いがする!)

彼は、くすんくすんと、鼻をならした。

すると、とつぜん、まるで、お伽噺のようなことが起った。それは、傾いた戦車の鉄板の床の上を、林檎のような形をしたものが、ころころと、ピート一等兵の足許へ、ころげてきたのであった。

彼は、太い指で、いくども、眼をこすった。

(あれえ、おれの眼は、どうかしているぞ。あまり食べ物のことを考えつづけたため、とうとうおれの頭はへんになって、有りもしない林檎が目の前に見えるのじゃないか)

眼を、ぱちぱちしてみたが、たしかに彼の足許には、林檎がおちている。

彼は、いくたびか手をのばそうと思いつつ、いやいや手をだすまいと、はやる心をおさえた。