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さかたのばあい

坂田の場合

豊島 与志雄

――「小悪魔の記録」――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,335 字 · 29 页

青空文庫

「どういう御用ですか。」と坂田はくり返した。

敏子の眼には苦悩の色が浮んだ。それをじっともち堪えているうち、彼女の顔は冷くそして美しく輝いてきた。彼女は兄と十二三も年齢がちがい、その間の二人の姉も、一人は結婚し一人は夭折していたが、彼女よりずっと年上だったせいか、彼女のうちにはのんびりした我儘さが残っていて、それが理知的な色に包まれ、更に苦悩の色にそめられると、新鮮な美しさを現わすのだった。そしてまた顔立も、肩が少しくいかついわりに細そりしていて、人中にいる時よりも一人になるほど目立ってくるたちで、切れの短くて深い眼や口が、緊張するに随ってくっきりと浮出してくるのだった。坂田はまともにじっと彼女の顔を見返した。

彼女は慴えたように眼をそらした。

「もう……申さなくてもよろしいんです。」

「云うのが恐いんですか。」

「あなたは……軽蔑して……ばかにしていらっしゃるのでしょう。分りましたわ。ずうずうしい女だと思っていらっしゃるのでしょう。よく分りました。」

彼女はふいに、涙をぽろりと落した。そしてそれに自ら反抗するように、声を震わして云い進んだ。

「よく分りました。