轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

さかたのばあい

坂田の場合

豊島 与志雄

――「小悪魔の記録」――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,335 字 · 29 页

青空文庫

「なぜ殺さないんです。」

「自分では殺しません。」

「自分で殺さない……。」

「誰かに殺させます。」

その咄嗟の問答を、二人はじっと眼を見合せながらなしたのだが、それからなお暫く、そのまま釘付けになっていた……。敏子は身を引いた。坂田はよろけるように椅子に坐った。

坂田は椅子の上で、眼をつぶった。彼の頬は全く血の気がないといってもいいほど蒼かった。

敏子は二度ばかり、立ち上りかけてはまた腰を下した。それから室内を、その家具や装飾品を一つ一つ、はっきり心にとめるためのように眺め初めた。そして彼女がまた、煖炉棚の上の人形を見ている時、坂田は眼を開いた。

「敏子さん。」そう彼は呼んで、ちょっと間をおいた。「あなたが、子供の時から今までの間に、一番嬉しいと思ったことか、悲しいと思ったことか、どちらでもいいから、聞かして下さい。」

敏子は黙っていた。

「何でもいいんです。心に残ってることを、一つだけでいいんです。」

彼は両腕をくみ、また眼をつぶって、深々と椅子によりかかって、待った。

敏子はだしぬけに、そして静かな調子で、身動き一つしないで話しだした。

「……あたしには、母の乳が足りなかったものですから、乳母がありました。