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さかたのばあい

坂田の場合

豊島 与志雄

――「小悪魔の記録」――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,335 字 · 29 页

青空文庫

二人の応対がばかに真剣だったので、俺が差出口をする隙がなかったし、なお、俺にはよく腑におちない複雑なものが底に隠れていた。それから、その夜の二人のことについては云うべき限りではないだろう。ただ、俺の予想が全く外れたのは、翌日の坂田のことだ。

翌朝、四時半頃に、坂田と敏子とは、前夜から開け放しの窓にもたれて外を眺めていた。もう東の空は明るくなって、中天の星は淡くまたたいていた。敏子の髪が乱れ、顔が蒼ざめていたが、坂田は髪こそ乱しているが、晴れやかなすがすがしい顔で、眼差しに力がこもっていた。

二人は東の空の明るみを見ながら、それに眺め入ってる様子をしながら、手を握りあっていた。やがて敏子は力つきたかのように、静に頭を坂田の肩にもたせかけた。坂田は彼女を長椅子につれていった。そしてそこで、互によりかかって、肩と肩とを抱きあいながら眼をつぶった。

彼等はそうして眠ったのかどうか、実際判断がつかなかった。時々、どちらかがうっすらと眼を開いてはまたつぶった。二三十分おきくらいにそうするのだった。

六時頃、日の光がさしてきてから、二人は立上った。曖昧な微笑をかわして、それきり眼をそらした。