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しろ

城

和辻 哲郎

「思想」1935(昭和10)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,222 字 · 9 页

青空文庫

たとえば街路樹である。日本の古い都会には街路樹がなかった。だから西洋の都会をまねて街路樹を植え、しかもその樹にプラタヌスを選ぶなどということも、確かによいことではあったろう。しかしそれとともにあたかも日本に街路樹がなかったかのごとくに考えてしまうということは、前に言った色盲である。東海道の松並み木や日光の杉並み木などは、世界に類例のないほど豪壮な街路樹ではないか。松の幹が大きくうねって整列していないということは街路樹たる資格を毫も遮げるものではない。もし街路樹の必要を感ずるならば、すでにかくのごとき壮大な街路樹の存することを認識し、またそれを尊重しなくてはならない。そうすれば電線の下にすくんでいる矮小な樹が街路樹であると考えるような大きな見当違いをしなくても済んだであろう。欧州の都市においてはこのように小さな街路樹はただ新開の街にしか見ることができない。少しく立派な街ならば街路樹は風土相応の大木となっている。また大木とならなければ美しい街になることはできぬのである。街路から電線を取り除くことが不可能であるならば、電線は街路樹の枝の下に来べきものであって、梢を抑えるべきものではない。