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しおばな

塩花

豊島 与志雄

「世界」1946(昭和21)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,421 字 · 25 页

青空文庫

その後は雑談で、山口としては、政治界の内幕などを大に談じたかったのだが、吉村氏はただ簡単な返事をするきりで、いつもそっぽを向いていた。自分からは殆んど口を利かず、没表情のなかに閉じこもっていて、何を言いかけても反応がなかった。それを文学者の偏屈だと、山口は解釈してみたが、先刻の魚住千枝子とのなごやからしい対話との対照が余りに甚しかったので、これは自分に対する反感の故でもあろうかと気づいた。然し吉村氏の反感などには一顧の価値も見出さなかったので、ただ魚住千枝子のことをも少し聞き出し得ないのが心残りなだけで、やがて程よく辞し去った。

その数日後、山口は波多野邸で、思わぬ好機会を得た。

党からの一寸した挨拶を口実に、波多野未亡人を訪問すると、乾燥芋の生干しが茶菓子の代りに出た。

「素人作りですけれど、たいそう甘いんですよ。ちょいちょい頂きますので、すっかり干しあがるまでには、半分はなくなってしまうでしょうと、皆さんが仰言いますし、またそれくらい甘くなければ、乾燥にする甲斐がないとも仰言いますが、まったくですよ。これで自信がつきましたから、今日もまた干しているところですよ。