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ちり

塵

夢野 久作

「新潮 30巻3号」1933(昭和8)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,093 字 · 5 页

青空文庫

、祈る者の悲しみをためらわせる。

貴人の自動車を追いかけたあとで、すぐに乞食老爺の喘息に襲いかかり、さらに、病院のカアテンから忍び入って、患者が忘れて行ったヒヤシンスの萎れ花に寄りたかり、いつの間にか応接間の油絵の額縁に泌みにじんで、美しい表情を疲れ弱らすかと思えば、又もや、遠い銀座の百貨店の前を慌しく走り過ぎて、めんくらった虚栄の横顔たちを真剣な形に引き歪める。何という皮肉な塵の思い付きであろう。

塵は又、田園の挽歌だ。

ある時は、眼に見えぬ魂か何ぞのように、ズルズルズルと音を立てながら麦打ち場から舞い上って、地続きの廃業した瓦焼場から、これも夜逃げをした紺屋の藍干場へかけて狂いまわり、又は、森の中に立ちあらわれて、見る人も聞く人もない淋しい、悲しい心を、落葉と共に渦巻き鳴らしつつ暗い木立の奥に迷い込んで行く。

又ある時は、お祭りの人ごみに立ちまじって、赤いゆもじの裾を染め、オモチャの笛をあわれみ詰まらせ、神木の肌を神さびさせ、仁王様の腕の古疵を疼き痛ませ、御神鏡の光を朧にした上に、伏しおがむ人々の睫毛までも白々としばたたかせて、昔ながらの迷信をいよいよ薄黒く、つまらなく曇らせる。