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ぼちてんぼうてい
墓地展望亭
久生 十蘭
「モダン日本」1939(昭和14)年7月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 46,485 字 · 93 页
リストリア王国は、ルウマニヤとチェッコ・スロヴァキヤに挾まれた群小国の間にぽっちりと介在している。
不等辺三角形をしたその国の央ほどのところを、青ペンキ色に塗られたダニューブの河が流れている。
青いダニューブの河! その岸に、マナイールが、首府の標の二重丸をつけてたたずんでいる。
マナイール!
竜太郎は、その上へ、そっと人差指を置きながら、こんなふうに弦く。
「ここに、おれの薄情な恋人が住んでいる。……あの悲し気な眼つきで、ダニューブの水でも眺めているのだろうか」
地図の上を強く磨すると、指先にダニューブの青い色がついて来た。
眼に指先を近づけて、それをじっと眺めているうちに、むしょうに、あの少女に逢いたくなって来た。なんでもいい、たった、ひと眼でいい、一旦、そう思い出したら、もう方図がなかった。
がむしゃらな、一途の激情が滾り立って来て、抑えようがない。息切れがして、すぐ傍の椅子の中へ落ち込んでしまった。
竜太郎は、両手で顔を蔽って、長い間激情と戦っていたが、そのうちにどうにも耐えられなくなって、錯乱したように叫び出した。
「……行こう。……あの薄情な恋人の戴冠式の行列を見に、マナイールへ行こう!……街路樹の蔭からでも、よそながら、ひと眼見てこよう。