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ぼちてんぼうてい
墓地展望亭
久生 十蘭
「モダン日本」1939(昭和14)年7月~8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 46,485 字 · 93 页
紛擾をある程度でとどめて置きたい、微温的な感情が、それを躊躇させたのです。われわれが二度目の攻撃的攻撃に移ろうかどうかと気迷いしているうちに、敵は新たな“切り返し”の手を考え出した。ステファン五世急逝の報知でエレアーナ王女殿下がマナイールに到着された日、一士官を使嗾して王女の自動車に発砲させました。不幸なことには、それが、参謀本部に隷属するいわゆる、われわれの一味だった。……ポチョムキンはそれを口実にして、臨終の際に作成された勅令をふりかざし、軍令部が独裁権をとって、即時に戒厳令を実施してしまいました」
そう言って、おだやかな諦観の微笑を浮べながら、
「そして、これが、われわれの、哀れな姿です」
と呟いた。
竜太郎は、一語もさし挾まずに聞いていた。バルカンの国民的性格のなかに、どんな小さな事柄でも、陰謀と闘争のかたちで表現せずにいられない運命的なものがあることを、つくづくと感ぜずにはいられなかった。老人の、寛容な態度や率直な熱情にかかわらず、気質的な弱さには同情する気持になれなかった。
竜太郎が、たずねた。
「それで、エレアーナ王女殿下は?」
竜太郎には、もうその返事が、わかっていた。