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ぼちてんぼうてい

墓地展望亭

久生 十蘭

「モダン日本」1939(昭和14)年7月~8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 46,485 字 · 93 页

青空文庫

停車場へ行くのかと思っていると、そこを右に折れて、人家のまばらな郊外の方へ出て行く。これで、もう、一時間も、走りつづけているのだった。

岩山の裾を廻ると、はてしもない黒い原野が、眼の前に展けてきた。

とつぜん、自動車が停った。

肩幅の広い、武骨なようすをした運転手が、自動車の扉を開けると、竜太郎の旅行鞄を車からひき出し、それを、泥濘の上へおいた。

「ここで、お降り願います」

竜太郎は、呆気にとられて、その顔を眺めていた。

運転手は、もう一度繰り返した。

「ここでお降り願います」

その声の調子のなかに、抵抗しがたい、強圧するような調子があった。竜太郎は、車から降りた。

竜太郎を車から降ろすと、自動車は、赤い尾灯を光らせながら、いま来た方へ走り去ってしまった。

竜太郎は、鞄の上に腰をかけて、改めてこの荒漠たる風景を眺めわたした。月もなく星もなく、ただ一面に黒々とした、空寂な世界だった。こんな暗い荒野に、ひとり、ぽつんと投げ出されては、どうしよう術もなかった。この道は、たぶん国境のほうへ通じてるとすれば、いずれ、自動車ぐらいは通るだろう。そのうちに夜も明けるだろうし……。