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へんなおとこ

変な男

豊島 与志雄

「中央公論」1923(大正12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,508 字 · 81 页

青空文庫

「大学生にしては、随分荷物の少い方ですね。」

「だって、」澄子が応じた、「苦学をしてるとか仰言ってたじゃありませんか。」

「でもねえ、いくら何だって、本箱の一つくらいありそうなものですがね。」

「本箱は頭の中にしまっとく方がいいですよ。」と中村が云った。

「あんまり荷物が少なすぎますよ。」

辰代は自分一人の繰言をしながら、台所へやっていった。そして残りの用を済し、何か繕い物を持出してきて、室の隅に蹲った。

澄子はまた話の続きを初めていた。大学生とも一人の学生との応対の所になると、彼女と中村とは、はっと気付いて口を噤まねばならなかったほど、愉快な高笑いを洩らした。

「私あの方を、」と澄子は云った、「まるっきりの田舎者か、それとも偉い天才か、どちらかと思ってよ。」

「そうだね。」そして中村は考え深そうな眼付をした。「わざと衒っているのじゃないかしら。」

「いいえ、ありのままよ。衒うことなんか、これっぱかしも出来そうにない人だわ。」

「もしそうだったら、その変梃なのが正直な所だったら、澄ちゃんが云うように天才かも知れないね。」

「どうして?」

そこで中村は、医学上の見地から天才というものを解釈して、天才とは結局、頭脳の一部分が極度に発達して、他の部分が萎縮してしまってる、一種の不具者だとした。