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へんなおとこ

変な男

豊島 与志雄

「中央公論」1923(大正12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,508 字 · 81 页

青空文庫

朝一度御飯を食べるきりで、時々西洋料理や蒲焼などを取寄せはするものの、大抵はパンと牛乳とで過しているので、身体に精分がつくわけはない。中村のように一日病院につとめてるのなら格別、今井は家にばかりごろごろしてるので、もし家の者同様でよかったら、午も晩も賄をしてやってもよい、と彼女は考えた。

「ねえ、澄ちゃんどうでしょう?」と彼女は娘にも相談した。

「お母さんさえそれでよかったら、今井さんはお喜びなさるでしょうよ。」と澄子は答えた。

それで辰代の決心はついた。病気のことには触れないようにして、例の不経済をたてに、もしよかったら実費で――全部で二十五円ばかりで――賄付にしてあげてもよいと、彼女は云い出してみた。

「結構です。」と今井は答えた。「どうかお願いします。」

そして翌日から、今井は辰代の拵えてくれる米の御飯を食べることになった。そのために、辰代の手がふさがっている時には御膳を運んだりなんかして、自然と澄子が二階に上ってゆくことも多くなった、そういう時今井は大抵机に両肱をついてぼんやりと、開け放した窓から空を眺めていた。

「空を見てると、一番心がしみじみ落付いてきます。