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へんなおとこ
変な男
豊島 与志雄
「中央公論」1923(大正12)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,508 字 · 81 页
そして私が放笑してしまったものだから、とうとうばれちゃったの。でも平気よ。昔のことを云って人を馬鹿になさるから一寸おしっこをひっかけてやったんだわ、金口なんか吸って生意気だ、と云ってやると、いい気持だったわ。それでも後でお母さんから、嫌というほど叱られたの。」
「然しあなたは、何でも中村さんに相談なさるんでしょう。」
「ええ、時々……。でも何だか、本気に聞いて下さらないから、つまらないわ。」
今井は暫く黙っていたが、ふいに云い出した。
「私はあの人が嫌いです。皮肉ばかりで固めたような感じがしますから。」
「だって、皮肉な人は頭がいいんでしょう。」
「頭が悪くて皮肉な人だってありますよ。勿論中村さんは頭がいいようだけれど……。この室に来た当時は、そりゃあ変な気がしたもんです。妙にあの人から圧迫されるようで……。第一こちらは、この通り粗末な室だし、向うは立派な八畳の座敷でしょう。それが、壁一重越しで、縁側続きなんだから、まるで私はあの人の徒者といったような感じです。向うの物音が気になって仕方なかったんです。それでも、負けてなるものか、反抗してやれ、という風に心を持ち直して、それからだんだんよくなって、もう今では、こちらが主人で向うが従僕だと、平気で落付いています。