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へんじんでん

変人伝

佐々木 邦

「日の出」新潮社、1934(昭和9)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,178 字 · 21 页

青空文庫

「変人なんてことはありませんよ。あれは頭の中が学問で一杯ですから、つい常識が圧倒されてしまうんですわ」

と母は弟の正気を疑わない。

丁度その頃、叔父の親友の島崎画伯が市の素封家の肖像を描きに来て、立ち寄ってくれた。父とは郷里で家が近かったから、年は違うけれど、子供の時からの友達だ。

「幸太郎君は転任しましたね」

と父が話の中に叔父の問題に触れた。

「はあ。喧嘩をしたんですよ」

「よくやるね。困った男だ」

「実は僕もこの間やったんです。しかし何うせこゝへ寄るんですから何か伝言があるかも知れないと思って、立つ前に顔を出したら、『何しに来た?』と言いました」

「はゝあ」

「此方も意地です。門のところへ小便しに来たんだと言って、出て来てやりました」

「ハッハヽヽ」

「僕はもう数十回です」

と島崎さんは好い相棒らしい。

「君と菊池君、それに竹内君ですね、あの変人に愛想を尽かさないのは」

「そこは昔馴染です。お互に性根が分っています」

「何で喧嘩をしたんですか?」

「碁です。碁敵は憎さも憎し懐しゝという諺がありますが、幸太郎君のは憎さも憎し憎らしゝですから敵いません」

「ハッハヽヽ」