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ゆうがおのもん
夕顔の門
吉川 英治
「婦人倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,956 字 · 29 页
地の下に、蚯蚓が泣きぬいて、星の美しい夜となった。夜となれば暑い夏も、ずっと冷々して、人間の心からも、焦々したものを拭ってゆく。
『……うううむ。……ううム……』
庭の隅の鷹小屋から、時折、苦しげな太い呻きがながれてくる。それは、お市と兵庫の、六年間の苦しみを、一時にがき苦んでいるような呻きだった。
お市の耳へも、それは聞えてゆくに違いない。捨てて置けば、出血は止まるまいし、刻一刻と、生命が縮められてゆくことも知れきった事である。
そのうちに――がたんと、裏の方で、物音がした。
兵庫は、すぐ窓を開けて、
『誰だっ』
と、咎めた。
『あ……吃驚いたしました。仲間の由松でございます。諫早の病人が快くなったので、唯今戻って参りました』
『オ……由松か』
『御用を欠いて、相すみませんでした』
『いい所へ戻ってくれた。早速だが、金創薬の有合せがあるか』
『ございます』
『それと、片口注へ焼酎をなみなみ注いで、晒布と一緒に、鷹小屋の前へ持って行ってやれ。――外へ置いてくればいいのだぞ、中へは這入るなよ』
『へい』
由松は、不審な顔をしながら、とにかく吩咐けられた品を揃えて、裏庭の奥へ運んで行った。