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たしんきょう
多神教
泉 鏡花
「文藝春秋」1927(昭和2)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,787 字 · 36 页
神楽の人々囁き合う。
禰宜 知っておるかな。
――「なあ。」「よ。」「うむ。」「あれだ。」口々に――
後見 何が、お霜婆さんの、ほれ、駄菓子屋の奥に、ちらちらする、白いものがあっけえ。町での御恩人ぞい。恥しい病さあって隠れてござるで、ほっても垣のぞきなどせまいぞ、と婆さんが言うだでな。
笛の男 癩ずらか。
太鼓の男 恥しい病ちゅうで。
おかめの面の男 ほんでも、孕んだ娘だべか。
禰宜 女子が正しい懐妊は恥ではないのじゃ。それでは、毎晩、真夜中に、あの馬も通らぬ一本橋を渡ったじゃなあ。
道化の面の男 女の一念だで一本橋を渡らいでかよ。ここら奥の谿河だけれど、ずっと川下で、東海道の大井川より大かいという、長柄川の鉄橋な、お前様。川むかいの駅へ行った県庁づとめの旦那どのが、終汽車に帰らぬわ。予てうわさの、宿場の娼婦と寝たんべい。唯おくものかと、その奥様ちゅうがや、梅雨ぶりの暗の夜中に、満水の泥浪を打つ橋げたさ、すれすれの鉄橋を伝ってよ、いや、四つ這いでよ。何が、いま産れるちゅう臨月腹で、なあ、流に浸りそうに捌き髪で這うて渡った。その大な腹ずらえ、――夜がえりのものが見た目では、大い鮟鱇ほどな燐火が、ふわりふわりと鉄橋の上を渡ったいうだね、胸の火が、はい、腹へ入って燃えたんべいな。