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たしんきょう
多神教
泉 鏡花
「文藝春秋」1927(昭和2)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,787 字 · 36 页
(凄く笑う。)
吹つのる風の音凄まじく、荒波の響きを交う。舞台暗黒。少時して、光さす時、巫女。ハタと藁人形を擲つ。その位置の真上より振袖落ち、紅の裙翻り、道成寺の白拍子の姿、一たび宙に流れ、きりきりと舞いつつ真倒に落つ。もとより、仕掛けもの造りものの人形なるべし。神職、村人ら、立騒ぐ。
お沢 ああ、どうしましょう、あれ、(その胸、その手を捜ろうとして得ず、空しく掻捜るのみ。)
媛神 それは幻、あなたの鏡に映るばかり、手に触るのではありません。
お沢 ああ唯貴女のお姿ばかり、暗い思は晴れました。媛神様、お嬉しう存じます。
丁々坊 お使いのもの!(森の梢に大音あり)――お髪の御矢、お返し申し上ぐる。……唯今。――(梢より先ず呼びて、忽ち枝より飛び下る。形は山賤の木樵にして、翼あり、面は烏天狗なり。腰に一挺の斧を帯ぶ)御矢をばそれへ。――(女の童。階を下り、既にもとにつつみたる、錦の袋の上に受く。)
媛神 御苦労ね。
巫女 我折れ、お早い事でござりましたの。
丁々坊 瞬く間というは、凡そこれでござるな。何が、芝居は、大山一つ、柿の実ったような見物でござる。此奴、(白拍子)別嬪かと思えば、性は毛むくじゃらの漢が、白粉をつけて刎ねるであった。