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よるのわかば

夜の若葉

宮本 百合子

「婦人朝日」1940(昭和15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,072 字 · 24 页

青空文庫

灯のない夏の夜空の薄らあかりを背にして光っているような桃子の虚飾のない精一杯の心と、その心の弾力さながらに半ばまだ眠りつつ艶やかな曲線にうごいているような桃子の体とは、ほとんど抑えがたく順助を牽きつけた。桃子の柔かい巻毛のこぼれている顳のところへ心からな親愛の接吻を与える心持をこめて、順助は、

「ああいいよ」

と答えた。

三

直接の形では一言も表現されないけれど、互のまじりっけのない情愛と、その情愛の人間らしい力から、自然の偶然にかくされた暗さに屈しない意志をも認めあって、桃子の心には、順助に対したときいままでよりなおくもりのない歓びと勇気とが感じられるようになったのであった。

いつか順助と誰かと結婚するようになるであろう。それは、自分についても考えられると同じ桃子にとっての分別である。音楽会で計らずもさよ子と一緒の順助に会って、連想は自然そこへも導かれるのであったが、桃子はその後順助にあっても自分からそのことにはふれなかった。桃子の若い潔癖は、その年ごろの一組さえみれば、きまりきった意味で眺めようとする周囲の眼を、少くとも自分の視線のなかに置くまいとするのであった。