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よるのわかば

夜の若葉

宮本 百合子

「婦人朝日」1940(昭和15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,072 字 · 24 页

青空文庫

もう一遍きこえたらと四辺の空気へ注意をこらしていた桃子は、今度は本当に覚えず、

「あら」

といちどきに芝生の上で上半身おきかえった。そこに順助が来ている。順助のうしろには紫色をぱっとにおわせてさよ子が笑って立っている。

「あら……」

桃子は仮睡からでも醒まされたような弱々しい途方にくれたような笑顔になりながら、きゅっきゅっと自分の額を握りこぶしで擦った。

「御免なさい、余り思いがけなかったもんだから」

桃子はやっと立って行って、

「よくいらしたわね」

とさよ子を迎えた。

「ゆうべ老松町の方へ電話かけたら、こっちだっていうもんだから」

「よかったわ。母さんもう御挨拶したの?」

「ちょっとお出かけだとさ」

飲みものの用意をしたり、あついしぼり手拭をこしらえたりしながら、桃子は単純な思いがけなさばかりではなく動かされている自分の感情で何となしうつむいた。こうやってここまで連立って来た二人の姿は何を語ろうとしているのだろう。

やがて多代子もかえって来て、みんなは東京からおもたせの御寿司を、芝生の木蔭へもちだしてたべた。生れつき善良さと悪意のない観察眼とを半ばずつ綯い交ぜながら愛想よく多代子が、若い女客をもてなしている。