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よるのわかば

夜の若葉

宮本 百合子

「婦人朝日」1940(昭和15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,072 字 · 24 页

青空文庫

そして、それは仕合わせな暮しと一応みられている生活のなかにも在る微妙な人間生活の陰翳から来るものだと思われるのは、自分だけの間違った推察だろうか。

女の芸術の進んでゆく姿に、こんなにうたれる今晩の自分の心の感じやすさの理由に我から心付くところもなくはなくて、桃子はぼんやり上気した頬へプログラムで風をおくっていた。いつの間にか来た順助に、

「ひとり?」

ときかれて、桃子は思わず、

「あら」

と、顔を赧らめた。

「よかったら、ちょっと出ようか?」

歩きながら順助は、

「森崎知ってただろう?」

といった。

「あの妹さんだ」

休憩の人々で溢れている露台の太い柱のところで、順助は改めて二人を紹介しあった。

「従妹の川田桃子です。森崎さよ子さん、どうぞよろしく」

そして、煙草に火をつけながら、

「園子夫人の進境著しい、ね」

ひとりでの感情を声に溢らして桃子は、

「ほんとう!」

と相槌をうったが、すぐさよ子をかえりみて、

「ここ、いつでもいらっしゃいますの?」

と話題のなかへ対手を誘った。

「時々――兄ったら自分の来たくないときだけ切符くれますのよ」

「じゃあ今日は特別待遇ですね、二枚もおごってくれたんだから」