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よるのくつ
夜の靴
横光 利一
――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页
私が黙っていると、また久左衛門は、
「物語、横光利一としてあった。第二放送というのはどうしたら聞けるのか知らんので。」という。
私は自分の職業を知られたくはなく隠すように努めているが、ときどきこのようなのっぴきならぬ眼にあわされる。あるときも、厠の箱に投げこまれている古新聞に私の作の大きな活字が眼につき引き破ったことがある。ここでの事ではなく別にあるとき、大阪市中での出来事もふとまた私は思い出したりした。それは堂島の橋の手前で、朝日の前あたりだったが、私が歩いていると、前を大きな箱を積んだリヤカーが走り脱けた。その途端、電車の前部に突きあたり、箱ごと眼の前でリヤカーがぶっ倒れた。あッと思うその瞬間、箱の中から、横光利一集と書いた書籍ばかりが散乱して、電車がごとごとその上を辷っていくのを見たときの呆然とした自分。また汽車の中で空席を見つけたとき、前にいる客が私の著作集を傍目もふらず読んでいる最中だったりしたときのことなど、こういうときの作者の感情は、得意というより悲惨に近いものがある。何ぜだろうか。私は久左衛門の所からも、その夕何の要領も得ず帰って来た。