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よるのくつ
夜の靴
横光 利一
――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页
そして、組長は、
「これに違犯すれば、どう罰を食うか分らんぞよ。」という。
「そうか、そんなら、こうはしてはおれん。」
さっそく参右衛門は立ち上り、竹筒から、竿に縛りつけたままの国旗の小さいのをとり脱した。それから床間にかかった武運長久の掛軸も脱して巻いてしまう。
「やアやア、ひどいことになったわい。天子さまの写真だけは、良かろうのう。」
と、鴨居の上の御真影を見上げていて、これだけは脱そうとしなかった。
「ああ、負けた負けた。」と、一人がいう。
「供出のさせ方が、おれらを瞞したから負けたのだ。」とまた別の一人。
「米をおれらに作らせて、作ったものが、自分の米も食えずに死にかけて、そのよなことがあるもんか。今年は何んというても、出すものか。おれは出さぬ。」と、また一人。
「おれも出さぬ。また瞞されて、出させた奴が名誉をもろうてさ。そのよな馬鹿な。」
「そんだそんだ、そのよなことを通して、今年の米を何というて出させるつもりか、聞いてやろ。」
敗戦の直接の影響が、こうしてこの村へ入って来たこれが初めてだ。それから暫く人人の話は、この山形県下へ顕れた聯合軍の噂に花が咲いたが、どういうものか、それら持ちよりの噂はどれも良い方面のことが多い。