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よるのくつ

夜の靴

横光 利一

――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页

青空文庫

「ところが、どういうものか、結果はこんな風になってしまって、もし僕がそのときあそこを買って置いたら。」

私が笑うと久左衛門は、「ほう、ほう。」と鳥の啼くような声を出してから、

「首吊りはのう。」と云って黙った。

「二代目はピストルだが、やはり、首のところだ。」

しかし、久左衛門には話はそこで止めねばならぬ不便もあった。何ぜかというと、彼は人の云うように、寺で物を売って儲けた人だからである。どうでも良いようなものの、それはやはり、どことなく云い難いものがあった。つまりはそこが彼の不幸な部分というべきものだろう。やはり、このような保守的な、限りもない習慣ばかりの村では、悲劇の種類も自ら違って来るのだ。そこがいつも話していてむつかしいところである。

十一月――日

稲刈はまだ終ってはいない。悪天の連続でどの田の進行も遅遅としている。私は農家の収穫を見おさめれば東京へ帰ろうと思っているが、雁が空を渡っていく夕暮どきなど、むかしこの出羽に流された人人も恐らくこのような気持ちだったであろうと思われて、東京の空が千里の遠きに見え、帰心しきりに起ることがある。しかし、妻は反対で、このままここで埋もれてもいい、どこへも行きたくないという。