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よるのくつ

夜の靴

横光 利一

――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页

青空文庫

この二人の酔漢の芝居が止み間もないその中に、寺の芝居は済んで特攻隊が戻って来たが、参右衛門ら仏間の「水臭さ」劇は止まる様子もない。とうとう一時だ。そして、最後の二人の科白は――

「もうじき、共産主義になるそうじゃ、面白いのう。あはははは――」

「とにこうに、おれは、礼をされて作るとあれば、いやじゃ、そんなのは、おれは――」

「共産主義になったところで、おれらには、何もないでのう。あはははは。」

「とにこうに――」

「あはははは、おれは、酔っぱらう奴は大嫌いじゃ。」

「いや、礼をされて――」

と、このような調子である。冗漫さというものも度を越すと面白い。これで人生は退屈しないのだ。間もなく、一人がその場へ眠ると、次ぎも眠った。私は眼が冴えいよいよ蚤との苦闘はこれから始まるところだが、この百ヵ日にあまる無益な苦しみは、想像を絶して苦しい私の劇だ。私は、今は蚤のことあるばかりで退屈をしない模様である。

十一月――日

祝いがつづいた二日目、隣家の宗左衛門のあばは、軒の葱をひき抜きながら、

「あーあ、退屈だのう。」

とそう呟くのが、私の立っている縁側まで聞えた。二日目にこの寡婦は、もう遊ぶことに退屈しているのだ。